こんにちは じんじょ(@jinjolifeshift) です。
今回は、文喫(ブンキツ)という新しい形の本屋さんを紹介します!
、、、とその前に、記事の前半では、本好きが知っておくべき出版業界の過酷な実情を整理します。
目次
本好きには悲しい出版業界の過酷な現実:書店の店舗数が年々減少
あなたは本が好きですか?
わたしは読書が好きです。「若者の活字離れ」が叫ばれ始めてから久しいですが、読書は間違いなくわたしの人生を豊かなものにしてくれています。
自分の身体はひとつしかありませんし、時間も有限です。しかし、本を通してならば、著者の視点を借りて、今まで出会ったことのない出来事を追体験することができます。
「知らない」ことを「知る」ことはとても楽しいことです。
- まだ知らない世界の不思議を知る知的興奮
- 「なるほど、そういう考え方もあったのか!」という発見や気付き
- 自分の価値観を揺さぶるような人物や出来事との出会い
などなど、本から得られるコトは盛りだくさん。
お出かけをしているときも、時間があるとふと書店に立ち寄ってしまいます。おもしろい本はないかなぁと物色しているうちに、あっという間に1時間が過ぎていることもしばしば。書店めぐりは趣味のひとつと言えそうです。
しかし、そんな本好きなわたしには悲しい、出版業界の過酷な現実があります。
「最近、本屋さんの数がどんどん少なくなっている」
そう感じたことはありませんか?事実として、全国の書店の数は年々減少しているのです。[1]
上のグラフは、書店の坪数ごとの店舗数を示しています。300坪以上の店舗数に変化はないものの、それよりも小さな書店は、年を経るごとにその数が減ってきてしまっています。
300坪はメートルに直すと992平方メートルなので、およそ30メートル四方。書店として考えるとかなりの広さです。
普段わたしが利用している書店の広さを調べてみると、200坪しかありませんでした。都内ハブ駅の駅ビル内にあり、お客さんも入っていて、それなりの品揃えをもつ比較的大きい店舗だと思っていたのですが、それでもその程度です。
こうした書店減少の要因は、若者の活字離れに加え、電子書籍の普及や、Amazonや楽天などの通販サイトの利用者増加などがあげられるのでしょう。
さらに、作家の橘玲さんは、出版業界の不況の原因として、業界の構造的な問題を指摘しています。[3]
出版業界が抱える2つのひずみ:「販売価格の固定」と「返品」制度
書籍や雑誌、新聞などは、実はその他の商品とは少し違う特徴をもっています。こうした出版物は、小売店での販売価格が固定されているのです。
「スーパーやドラッグストア、衣料品店では特売やセールが行われているのに、なぜ書籍はいつも同じ値段なのだろう?」
と疑問を持たれたことはありませんか?
メーカーが小売店に「この商品は、〇〇円で売ってください!」と支持を出すことは、独占禁止法で「不公正な取引方法」として禁止されています。これを「再販売価格の拘束」と言います。もしメーカーが販売価格を固定できてしまうと、小売店間の自由な競争が阻害され、消費者にとってもデメリットが大きいのです。
「メーカー希望小売価格」という表示があるように、メーカーが示すことができるのはあくまで「希望」のみ。価格をメーカーが指図することは、公平な市場競争の観点から許されていないのです。
しかし、書籍の場合はこの独占禁止法のルールが適用されません。その理由は、出版物はわたしたちの文化であり、一定レベルの文化水準を保つために価格を維持する必要がある、ということのようです。そのため、本や雑誌は全国どの書店でも出版社が決めた同じ値段で売られることになります。
こうした「価格固定制度」が原因で、出版業界は独自の仕組み「返品」制度を取り入れています。そしてその仕組みが、一度売上が落ちると業界全体が負のスパイラルに陥ってしまう「構造的なひずみ」を出版業界にもたらしているのです。
以下、少々ややこしいので図表を使って説明します。
「ややこしい話は苦手!」という方は、次の見出し【リアル店舗の苦悩は出版業界に限らない:GU次世代型店舗の工夫】までスキップ!
ここからは、出版業界で仕事をされていた橘玲さんの書籍『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』をもとに、出版業界の構造的なゆがみについて詳説します。[3]
出版社は、取次と呼ばれる卸売業者を介して全国の書店に本を卸しています(❶)。取次の多くは、出版社を株主とする非上場企業のため、出版社側が強い交渉権を握っています。このため、出版社は取次に本を卸す際に、実際はまだ書店での売上が立っていないにも関わらず、取次から支払いを受け売上を計上することができます(❷)。つまり、取次は出版社に対して「無利子」で資金を貸していることになります。低金利の時代とはいえ、これは破格の条件です。
そして、取次は全国の書店へと本を配本し(❸)、書店での実際の売上の一部を受け取ることで収益を上げることができます(❹)。しかし、店頭に並べた本がすべて売れるわけではありません。ここで書店は、在庫の処理に頭を抱えます。本の価格が固定されているため、値引きによる在庫処分をすることができないからです。そのため、出版業界では「返品」という制度が認められています。売れ残った本は書店から取次へ(❺)、取次から出版社へと「返品」され(❻)、返品された分の売上は出版社から取次へと「返済」されます(❼)。
この「返品」という仕組みが、出版業界にとって非常に大きな負担となっているのです。
本が売れている時代は、価格固定による「返品」制度の構造的なひずみは問題になりませんでした。しかし、今は本が「売れない」時代です。本が「売れない」場合、書店は売れ残った本を「返品」するしかありません(①)。
「返品」は取次にとって大きな負担です。出版社に無利子で資金を貸していたがために、取次は資金繰りが悪化します(②)。そのため、返品率を下げる方向に誘引が働きます。つまり、出版社からの買入部数を減らし、書店への配本をセーブしようとするのです(②)。
出版社は、部数を絞られた中で売上を確保するため、出版点数を増やそうとします(③)。
そして書店では、出版社が販売する新刊を展示するスペースが足りず、取次からは配本を絞られて売れ筋の本が届かずに、売上が低迷してしまうという悪循環が発生します(④)。結果として、本が売れないが故にまた返品率が上がり、、、という負のスパイラルに業界全体が陥ってしまうのです。[3]
リアル店舗の苦悩は出版業界に限らない:GU次世代型店舗の工夫
ここまで出版業界の過酷な実情を説明してきました。
ただ、こうした「リアル店舗」での売上が伸び悩んでいるという実態は、出版業界に限った話ではありません。百貨店や家電量販店なども苦戦を強いられています。
デジタル時代の到来により、今後実店舗での売上は下がり、ネット販売の売上が伸びていくことは確実でしょう。
そんな中で、「リアル店舗」の新たな可能性を探る取り組みが各業界で行われています。[4]
カジュアル衣料品店GU(ジーユー)の「服を売らない店舗」をご存知でしょうか?
GUが2018年に原宿にオープンした次世代型店舗では、服を売っていません。より正確にいえば、「買った服を持ち帰ること」ができない。
通常の店舗と同等の品揃えを持つこちらの店舗でできることは「試着」まで。気に入った服はQRコードを読み取ってネットで注文し、翌日には自宅まで購入した服が届けられる仕組みとなっています。
GUは店舗を「試着」に特化することで、以下のようなメリットが生まれたと言います。
- 商品在庫が不要なので保管スペースを削減できる
- 原宿のような一等地でも店舗面積を抑えて低コストで出店できる
- 店員が接客に専念し着こなしのアドバイスに集中できる
なるほど、と思わせられる非常に面白い取り組みですよね。
- 商品を届ける「物流」
- お金のやり取りをする「商流」
が、今後デジタルに置き換わっていくことは避けようがない現実です。コロナの流行により、その流れは一層加速していくでしょう。
しかし、商品の情報や、お客さんのニーズや嗜好などの情報をやり取りする「情報流」の部分については、その限りではありません。リアルな商品体験ができ、顧客と直接接することができる「リアル店舗」ならではの工夫の余地が、まだまだ残されているのです。
GUを始めとした「リアル店舗」の売り方の工夫は、『100円のコーラを1000円で売る方法』で有名な永井孝尚さんの以下の書籍『売ってはいけない』に実例が示されています。
前置きが長くなってしまいましたが、ここで冒頭で紹介した新しい本との「出会い」を売る本屋さん、文喫(ブンキツ)が登場します。
文喫(ブンキツ)もまた、リアル店舗ならではの良さを生かした書店の新しい挑戦なのです!
新しい本との「出会い」を売る、という発想の転換@文喫
本との「出会い」を売るってどういうことでしょう?
文喫は2018年に、六本木のかつての名店「青山ブックセンター」跡地にオープンしました。[5]
ここは、入場料制の本屋さん。入場料1,500円を払って中に入ると、店内にある本はすべて読み放題。店内にはロッカーやソファー、カフェなどのくつろぎの空間が用意されており、一度入場してしまえば好きなだけ居座ることができます。もちろん、気に入った本は購入して持ち帰ることもできます。
文喫の存在は、上述した永井さんの『売ってはいけない』に教えてもらいました。
そもそも、リアル書店ならではの良さって何なのでしょうか?
なんで、わたしは本屋に1時間でも2時間でも長居できるのだろう?
それはやっぱり、新しい本を探し求めているときのワクワク感。
「知らなかった知識と、偶然に出会う」というのは、リアル書店だからこそ提供できる「商品体験」です。
これまでの本屋さんは、この「体験」の部分には値段を付けていませんでした。値札を付けることができるのはあくまで「商品」である。文喫は、こうした常識に立ち向かいます。これまで無償で提供していた、新しい本との「出会い」という体験に、入場料というカタチで価格を付ける。
永井さんは、本の中で以下のようにおっしゃっています。
私たちは、販売活動そのものからは「お金を取れない」と頭から信じ込んでいる。しかし、この常識は疑うべきである。本来高い価値があるのに、売れる商品があるがゆえに、その価値をタダで提供している業界は少なくない。
『売ってはいけない』 永井孝尚
まさに、コロンブスの卵的、発想の転換です。本好きであるからこそ、「本との出会い」が持つ価値には大いに共感することができます。目からウロコが落ちる思いでした。
いざ、文喫へ!
永井さんの本を読んでから1週間と経たないうちに、妻を連れ立ってさっそく「文喫」へと足を運びました。日比谷線六本木駅で降り、地上に出てすぐのところに文喫はあります。
写真のように、普通の書店ではあまり見かけないような本たちが特設スペースに展示されています。本の平積みというのがまたおもしろいですよね。下にはどんな本が隠れているのだろう?という好奇心を掻き立てられ、ついつい手を伸ばしてしまいます。
おしゃれな店内には、芸術、科学、社会、文学などの分野ごとに多くの蔵書が並べられています。いわゆるベストセラー本も見かけますが、多くの本はあまり書店で目にしたことがないものばかり。「体験」を売るだけあって、こだわりの品揃えが伺えます。
当日は、朝開店直後に入店し、妻と二人でソファを陣取って、夕方まで一日中「本との出会い」を楽しみました。時間が過ぎるのもあっという間です。
店内では、ホットまたはアイスの煎茶とコヒーが飲み放題。「本を濡らしてしまわないようコースターをお使いください」と注意書きがあります。
お昼には、わたしはハヤシライスを、妻はチキンカレーを注文していただきました。美味しかった!
妻と二人で、「本との出会い」を十分に堪能し、二人合わせてお気に入りの8冊を購入してしまいました。積読状態の本がさらに積み上がってしまいましたが、ふたりとも大満足の一日でした。
こうした文喫のような書店が、低迷にあえぐ出版業界に風穴を開けてくれることを願いつつ、この記事を締めくくりたいと思います。
最後までお読みいただきましてありがとうございました!
とてもステキな体験ができる「文喫」にぜひ足をお運びください。
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